ヒュー・マクラウド氏の人気ブログ「gapingvoid」にビジネスブログに関する記事が載っていた。おもしろかったので全訳。
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エデルマンでの講演。
(2007年3月21日)
今日はありがたくもエデルマンのロンドン支社に招かれ、彼らのクライアントに「ブログ」と「Cluetrain後の現実」について話をしてきた。下記はそのメモだ。
導入:
1. 今日はみなさんの商売の話をしにきたわけじゃない。ここが弱肉強食の世界だってことは、みなさんもとうにご存知だろう。ご存知の通り、戦いは厳しく、利幅は薄い。そんなことは改めて申し上げる必要もない。今日お話したいのは、私がブログの執筆から学んだこと、それがみなさんのビジネスにどう役立つかだ。
2. 思うに、インターネットに関する書籍の中で、もっとも重要なのは「Cluetrain(邦訳)」だ。なぜなら、これはインターネットの本質を捉えた最初の本だから。インターネットとは人々が「話」をする場であって、企業やメディアが言うように「買い物」をする場じゃない。
国境を越えたパワフルな会話が始まっている。インターネットを通して、人々は適切な情報を瞬時に共有する方法を発見し、生み出しつつある。その直接的な結果として、市場はスマートな場所になりつつある。しかも、たいていの企業が追いつけないスピードで。
率直に言おう。マーケティングの観点から言えば、「Cluetrain」を読まない限り、インターネットを本当の意味で理解することはできない。一読をお勧めする。
3. 誰も君らのことなんか気にしていない。この最後の一行に戦慄する企業は多いはずだ。われわれは企業やメディアが全能の存在であるかのように教えられてきた。スーツ姿のビジネスマンが指をパチンと鳴らしてTVCMの枠を買えば、大衆は即座に列を成し、その商品を売ってくれとせがむ。セス・ゴーディンはこの古い世界を「TV-Industrial Complex」と呼んだ。そんな時代は終わった。現代人はたくさんの選択肢に囲まれている。処理できないほどの選択肢にあっぷあっぷしている。企業が生き残るためには、その他大勢からぬきんでなければならない。そのためには並外れたもの、語る価値のあるものを提供する必要がある。大金を注いで○○賞受賞のTV広告キャンペーンを作れば、つまらない商品でも飛ぶように売れた時代は終わった。人々は途方もなく賢くなっている。「Cluetrain」に書かれていた通り、インターネットのおかげで人々は相互に話をするようになっている。
4. 「効率」はすでに達成された。われわれは効率化後の世界に生きている。われわれはすでに一つ前の世代よりもよいものを、より安く、より早く作る方法を知っている。サプライヤーを締めあげる方法を、製造と販売のあらゆる段階で利益を最大化するシステムを構築する方法を知っている。中国へのアウトソースも完了した。そういったことは全部済んでいる。では、成長はどこから来るのか。今のビジネスを維持するためには、何が起きる必要があるのか?
論点:
5. 成長はさらなる効率化ではなく、人間化(humanification)によってもたらされる。2つの航空会社があったとしよう。どちらも便利なサービスと高い価値を顧客に提供している。ニューヨークに行くにも、香港に行くにも、運賃は同じくらい。どちらも同じくらい立派な飛行機を持ち、乗客にはピーナッツと飲み物と「機内食」をふるまっている。利用する空港も同じだ。しかし、一方の従業員はフレンドリーで、もう一方の従業員は無愛想。一方の航空会社には遊び心と冒険心があり、もう一方の航空会社はくたびれたサラリーマンのオーラをまとっている。どちらの航空会社の方がビジネスの人間的な側面を真剣に考えているだろうか。20年後も生き残っているのはどちらだろう? これを自分の業界に、自分の会社にあてはめて考えてほしい。
6.ビジネスブログがうまくいくのは、会社を人間的に見せることができたときだ。「穴の開いた膜」という投稿でも書いたが、企業は顧客(外部市場)の会話が社内の会話(内部市場)と一致する状態を理想としなければならない。顧客が夢中になっているものに企業も夢中になるべきだ。これを「一致(alignment)」と呼ぶ。そのよい例がAppleだ。Appleの連中はiPodをクールだと思っている。顧客もしかり。彼らは「一致」している。
問題は、企業と顧客が一致しなくなった時だ。企業が自社の製品をほめたたえ、消費者が最低の商品だと言い合う時、深刻な不一致が起きる。
では、不一致を避けるためにはどうすればいいのか?
答えは企業と顧客を隔てている「文化の膜」にある。この膜にたくさんの穴が開いているほど、企業と顧客、内部と外部の対話は容易になる。両者はよりそい、同化するようになる。
そしてブログほどうまく、この膜に穴を開けることのできるものはない。
7. ブログを書くということは大衆にリーチすることじゃない。新たな販路を作り出すことでもない。ブログを書くということは、「スマートな会話」を生み出すことだ。
なぜ失敗する会社と成功する会社があるのか。成功する会社は、顧客とスマートな「会話」をしているからだ。プレタマンジェはバーガーキングよりもスマートに顧客と食べ物の話をしている。スターバックスは20年前、スマートな方法で数百万人とコーヒーの話を始めた。ウォルマートの急成長が始まったのは、彼らがスマートな方法で価格に関する会話を始めたときだ。サビルロウのテーラー、Thomas Mahonはブログを使って4000ドルの英国製ビスポークスーツに関するスマートな会話を始めた。
ブログを使えばスマートな会話を安価に、しかも即座に始めることができる。いったんブログが動き出せば、その会話はビジネスのあらゆる領域に広がる--広告、PR、そして企業広報の領域にも。
8. 「スマートな会話」を始めるということは、知的な決断ではなく、精神的な決断だ。
9. スマートな会話を始めることができたからといって、その会話が未来永劫、スマートである保障はない。会話を興味深いものに保つためには、絶えず会話を進化させていく必要がある。私はいつも「ブログはひとりでには成長しない」と言っている。ブログの最大の難所は、魔法がさめないようにすることだ。
まとめ:
10. Wikipediaに企業ブログの充実したリストが掲載されている (UPDATE:Wikipediaのリストは削除されたようだが、別のリストがここにある)。たとえば、私はサン・マイクロシステムズのことはほとんど知らないが、サンのCEO、ジョナサン・シュワルツのブログはかなり定期的に読んでいる。だから、今はサンについてかなり好意的なイメージを抱いている。では、ブログが生んだこのちょっとした好意を、もっと大きな何かに転換するにはどうすればいいのか。その答えもやはり、「スマートな会話」にある。企業にとって、ビジネスブログを書くことは、適切なやり方で人々に話しかける方法を学ぶトレーニングだ。実際、そのようなやり方でなければ、人々の反応を得ることはできない。その方法を身につけることができれば、それはビジネスのあらゆる側面に応用できる。
11.ブログは一般に思われているよりもずっと、文化的な破壊力を持っている。企業が自問しなければならないのは、自分たちがビジネスのどの部分を破壊しようとしているのかだ。なぜなら、準備が必要だから。
12. 「会話」というのはメタファーだが、ある意味ではメタファーではない。
13. 参考サイト:
A. ロバート・スコーブルの「企業ブログマニフェスト(Corporate Blog Manifesto)」は必読。
B. ジェフ・ジャービスは自身のブログでデル・コンピュータを批判し、ブログの歴史に名を残した。その後、デルは独自のブログを立ち上げた。賢明な対応だ。
C. マーク・キューバンの「Blog Maverick」は社長ブログの教科書。
D. マイクロソフトのスティーブ・クレイトンのブログは、中堅社員によるビジネスブログの好例だ。その他のマイクロソフト社員のブログはこちら。
E. ドク・サールズの書くものはすべて必読。黙って読め。彼は天才だ(ドクはCluetrainの著者でもある。私はもうひとりの著者、デビッド・ワインバーガーの大ファンでもある。デビッドはエデルマンのコンサルタントも務めている)。
14. 貨幣が発明されるずっと前から、この衝動はわれわれの体内に組み込まれていることを忘れてはならない。われわれは単に金のためにブログを書いているわけじゃない。われわれは意味を見つけるためにブログを書いている。私はそう思う。
15. 仕事を通して感じたこと。「イノベーションと売り上げを後押ししているのは技術的な問題ではなく、文化の問題だ。適切な文化を生み出すことができれば、技術は勝手に進化していく」
16. 最後にNYUの教授、クレイ・シャーキーの言葉を紹介しよう。「ブログ、ブロガー、ブロギングといった言葉は忘れて、この点に注目してほしい--それは、誰もがグローバルなメディアに情報を発信できるようになったこと、そのためのコストとハードルが著しく低くなったことだ。潜在的な情報発信者の増加は今後、非常に大きな影響を持つようになるだろう」
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原文:edelman talk